このブログのテーマは、タイトルの通り、「旅と暮らし」。
最初は、「旅」と「暮らし」は、私にとって真逆のものでした
旅は非日常で、暮らしは日常。
でも、定期的に旅に出るようになって、やっと当たり前のことに気づいたんです。
旅先で、”暮らし”ている人がいるということを。
新しいチャレンジをする時って、溢れんばかりの楽しみと同時に、まだ見ぬ景色に足もすくむし、”知らない”ことへの不安もつきまとう。
初めての場所を訪れる、旅をする時と似ていますね。
でも、それって最初だけ。
新幹線や飛行機は、初めて乗るときはドキドキするけど、慣れてしまえば普通になる。
でも、普通になったそこに、どんな景色を見出すのか、それが最近は私の旅の楽しみだったりするのです。
「パリ行ったことないの」(山内マリコ 著)は、旅に出たいと思っている方、新しいことにチャレンジしたい方にオススメの本です。
この本を読んで、それでもあなたが旅情報を調べずにいられるんだとしたら、それはきっと、本当は旅に出たくないんだと思う。笑
パリに行きたいと言う人は多いが、実際に行く人は少ない
旅行に行きたい、パリに行きたい…。
この言葉、何度も聞いたことがあるけれど、そう言っていた人が、実際に数ヶ月後に旅行に行った、という話は、実はあまり聞いたことがありません。
(旅行好きな仲間を除いては。)
かくいう私も、ずっとパリに行きたいと口にしながら、旅程を調べることすらしたことがなかった種類の人間。
パリに行く!
行く行く詐欺になりかけていた私が、やっとの思いで長年夢見たパリ行きを決めたのは20代も残りわずかなときでした。
いざ動き出てみたら、想像したよりずっと安く、希望の日程でも十分に行けることを知ります。
現実は、私が思うよりもずっとずっと優しかったのです。
「パリ行ったことないの」(山内マリコ 著)を開いたら、重い腰を上げる前の自分のような人たちに、何度も何度も再会してびっくりしました。笑
『フィガロジャポン』を定期購読しているのにパリに行ったことがないOL、
その時、急に「あれ?」っと思ってしまった。
セ・ラ・ヴィより
あれ?あたしは?あたしの人生は?ここまで…なの?
あたしが選んだ人生には、パリとか海外移住とか、そんなスペクタルな展開は起こらないんだ。
旦那とうまく行けば子供、家族。
それも幸せだけど、すごく普通。
あたしの人生にはもう、人に「スゴイ!」と驚かれるようなことは起こらないんだ。
いろいろあったけど、辿り着いたのは、絵に描いたように平凡な人生だったんだ。
平均寿命まで、まだまだ時間はある。
わたしはアナより
もっと長く生きる可能性だってある。
暇つぶしに病院に通うだけが、高齢者の人生じゃないのだ。
パリ行ったことないの
「パリ行ったことないの」(山内マリコ 著)は、パリに想いを馳せる、様々な世代の女性の全12話の短編集。
パリ、という切り口なのに、実際にパリ自体があまり登場しないのがこの本の興味深いところです。
街としての「パリ」は、1つしかないのに、10人いたら10通りの「パリ」の形があって、そこに想いを寄せる理由もそれぞれ。
読者(第三者目線)から見たら、文中に登場する人たちの悩みや夢は簡単に叶えられそうなことばかりです。
でも、当事者からしたら、今、目の前の日常から抜け出すことは難しいんだよなぁと、ふと自分の日常を振り返らずにはいられません。
パリに行かない(=一番やりたいことをやらない)理由は、どこにでも転がっている。
でも、パリに行く(=一番やりたいことをやる)のに必要なのは、その理由じゃなくて、ただシンプルに覚悟するだけなんですよね。
憧れのパリ、一番印象に残ったこと
私が初めてパリに行った時のこと。
旅3日目にして、一緒に行った友人が体調を崩してしまいました。
ずっと憧れていたエッフェル塔行きを諦めようとした時、何度もエッフェル塔に行ったことのある彼女は、私一人で行くように言ったのです。

初めてのパリ。
フランス語も読めず、会話もできない私は、ホテルから電車に乗り、目的の駅を乗り過ごさないよう、止まるたびに駅名を確認しながら向かいました。
駅に着いたときは、それだけで1つ、目的を果たした気にすらなりました。
一人でエッフェル塔に向かったものの、どうしてもエッフェル塔前で写真を撮りたくて、ひとり旅らしきの女性に声をかけたこと、彼女と仲良くなって、一緒にランチをしたこと…。
今でも、エッフェル塔そのものよりも、その道中が、ずっと思い出深いことは言うまでもありません。
文中、日本では劇場公開もDVD化もされていない幻のフランス映画にずっと恋い焦がれていたあゆこ。
そのDVDを飯田橋の図書館で一緒に探してくれると申し出たフランス人の女性に言った言葉がとても印象的でした。
「わたしはフランスに行って、自分の足で、その映画を探したいのです」(猫いるし より)
時に、目的そのものではなく、目的に行き着く過程も含めたそれが旅の醍醐味だったりしますよね。

実際に訪れてみると、ガイドブックからは感じられなかった、匂いや空気や生活している人たちの喧騒が一気に五感で感じられます。
思いもよらなかった素敵な風景が見られたり、人の優しさに触れたりもする。
そして、結局そういうのを体感すると、また「普通の日常」も案外愛おしいな、と思えるから不思議です。
見たい景色と、本当の景色
この本を読んで改めて、未知の世界って、知らないからこそ美しいところもあるなぁと思いました。
パリの本なのに、前半の舞台はずっと日本です。
前半描かれている”誰かの憧れのパリ”は、どれもおしゃれで美しい描写ばかり。
最後の最後に、少しだけ出てくるリアルなパリがこれ。
実際、パリはきらきらした部分とそうでない部分のコントラストが強い街だ。
わたしはエトランゼ より
顔を上げると建物からなにからすごく綺麗なのに、下を向くとゴミだの唾の跡だの煙草の吸い殻だの、汚れた部分ばかりが目に入る。
はっとするほど素敵なパリジェンヌが颯爽と歩き過ぎ、ぼーっと目を奪われていると、スリにバッグを狙われたりする。
それが初めてパリを目にした時の印象とあまりに重なって、驚きました。
(これ↑、本の中で”私が感じたパリ”がそのまま出てきてちょっと嬉しかった部分。)
旅行者としては、”パリ”にFIGARO(パリのおしゃれファッション誌)の世界をリアルに求めたくなるけれど、現地の人たちにとってはこれが日常。
思い出すと、そろそろまた、パリに行きたいなあと思います。
リアルパリを知ってもなお、離れてみるとまた、憧れを感じる、このパリのおしゃれマジックってなんでしょう。笑
旅と暮らし

その只中は目の前のことしか見えず、深く考える間もなく通り過ぎて行くけれど、あとあと記憶に残り、思い出として刻まれる、特別な時間というのがある。
わたしはエトランゼ より
たいていのことは忘れていくけれど、人生の中にぽつりとそういう特別な時はあって、ふとした瞬間に思い出し、しばし心を奪われる。
毎日は駆け足で、明日へ明日へと進むけれど、そういう記憶に残った思い出たちが、飛び石みたいに自分の来し方をしっかりとマークしてくれているのだ。
これがあなたなんだよ、と。
文中のこの部分がとても気に入りました。
もはや、日常や非日常や、そういうくくりじゃなくて、もっともっと大きな視野で人生をとらえていきたいと思わされた部分です。
結局、パリに行って自分を見つける人もいれば、変わらない人もいる。
パリに行くかどうかが重要なことなんじゃないんですよね。
幸せっていうのは、桃源郷の先にあるんじゃなくて、自分の中に自分で見つけるもの。
日常の暮らしの中にも、旅先のふとした瞬間にも、”幸せ”は転がっていて、そしてそうやって刻まれた記憶が、私を作ってくれている。
あえて私が旅に出るのは、日常でふと忘れてしまいそうな、こういう感情を思い出しに行くのかもしれません。笑
ネタバレになってしまうから、多くは語れないけれど、この本の最後に仕事から帰った主人公が、ゆっくりと休日を過ごす、その終わり方がとてもロマンチックで好きでした。
どこかに旅行に行きたいな、
憧れの場所に実はずっと行けていないな、
そんな方の背中を全力で押してくれる本です。
個人的には、「猫いるし」・「わたしはアナ」・「美術少女」・「セ・ラ・ヴィ」がオススメです。
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